決意

「アリア、村へ行こう」
ユナンがそう切り出したのは翌朝の事だった。
「え……」
アリアの事を知った上でのユナンのその提案に、アリアは少し面食らった。
「村のみんなを説得する」
まじめな顔で言う。
「でも……」
アリアは下を向いた。
「大丈夫!アリアを見れば、みんなそんなに怖がる事はないっていうのがわかるって!」
言って、にっといつものように笑う。
「……」
尚も俯いたままのアリア。
「俺がついてるからさ」
そう言って、アリアを優しく見つめる。
アリアは複雑な表情とともに口を開いた。
「いいわ。あなたに任せる。でも……くれぐれも無理はしないでね」
ユナンは「全然無理じゃないさ!」と、自信たっぷりに言った。

 そのあと、二人は手早に身支度をし、村へと向かった。
 今日の空は雲を重たく抱えている。厚い雲の層が空をどこまでも覆っていた。
 途中、あの一本木の丘を通りかかる。
 今日の風は、いささか強く吹き渡っていた。
 ふと、アリアが思い出したように言う。
「あそこ、ね。父と母のお墓なの」
「え?」
ユナンは驚き聞き返した。
「この大きな木の下に、父と母が眠ってるわ。と言っても、もう三百年近く前の話だけど」
言って苦笑するアリア。
「じゃあ俺達が出会ったあの日のお花……」
ユナンはやっと謎が解けたと思った。
「そうよ。父と母に捧げに来たの」
こんな所に花を持ってきていた理由。
アリアの淡い新緑色の髪が風にそよぐ。
「じゃあきっと、お父さんとお母さんが俺達を引き合わせてくれたんだな」
言ってユナンはいつもの笑顔で、にかっと笑う。アリアも、ふんわりと笑顔になった。
 そこからまた少し歩くと、いよいよ村の入り口へ辿り着いた。
村の入り口付近、ユナンが気が付くと、アリアは後方で歩みを止めていた。
緊張した様子のアリアを見て、ユナンが声をかける。
「アリア、大丈夫?」
眉間にしわを寄せんばかりの顔をしていたアリアが、はっと我に返る。
「あ、ええ……ユナン、やっぱり私……」
何やら言いかけたその瞬間、ユナンは軽くアリアの手を引いた。
「えっ」
と、一歩を踏み出すアリア。
「ほらね、一歩なんて簡単、簡単!」
そう言ってまた前に進み始めるユナン。
驚いたままのアリアは、やがて穏やかな表情になり、
それから目を一度閉じ、もう一度開くと、今度は力強く一歩を踏み出した。




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