変化

柔らかな日差しの午後。村の通りは、いつの休日でも人通りはそう多くない。
その表通りに面した一軒の花屋。店先には色取りどりの花束が並べられている。
その大量の花に埋もれて、悩んでいるユナンがいた。
いくつか迷い、それでも決めて何本か手に取り奥に向かって声を上げる。
「父さーん!これだけもらっていって良いかなー?」
「何だユナン、最近やけに楽しそうだな。」
奥から聞こえる暢気な声。出てきたエプロン姿の男性、ユナンの父親のエドワードは言った。
エドワードは、ユナンと同じくすんだ金髪を持ち、優しそうな、
しかし少し頼りなさそうな笑みを浮かべる男だった。
「ん〜〜?そうかな?」
楽しそうにユナンは言う。
「何か良い事があったの?」
母親のエマが、エドワードの後ろから顔を覗け、にこにこして問う。
そんな問いに、ユナンはへへへ〜と笑って、「まあね!」とだけ答えた。

いつもの風吹く一本木の丘。花を手に、ユナンは木の下へと丘を登って行く。
暫くして、大きな木の下に人影が見えてきた。アリアだ。
若草色の髪が、さらさらと風に揺れる。
アリアは几帳面な性格なのか、いつもユナンより早く約束の場所へ来てユナンを待っている。
「アリアー」
名前を呼んで、遠くから腕を振る。
それに対してアリアは、膝を抱えてうずくまり、
その体勢から僅かに顔を上げユナンの方を見るだけだった。いつもとは明らかに違う。
「……ユナン……」
声にも力がなく、弱々しい。
そんなアリアの異変に気付いたユナンは眉をひそめ尋ねる。
「アリア?どうしたんだ?顔色が悪いけど……」
普段から色白なアリアの肌は、今は乳白色を通り越して青白くさえ見える。
「ええ……その、ちょっと体調が良くなくて……」
歯切れ悪くアリアはそう答えた。
「えっ大丈夫?」
ユナンはそう言うと、アリアの前に屈み、自分のおでことアリアのおでこに手を当てた。
「熱があるじゃないか!」
アリアの熱さに驚いて、ついつい口調が強くなる。
「どうして来たんだよ!」
少し間を置いて、それからやや俯いてアリアは答える。
「……あなたに…会いたくて……」
言って膝を軽く抱え込む。その仕草はどこかすねた子供のように見えた。
「オレには会おうと思えばいつだって会えるだろ!?」
心配が先に立って尚も口調が強いまま、自分の体を気遣わないアリアに、
ユナンは憤慨さえ覚えていた。憮然とした表情でアリアを見つめるユナン。
そんなユナンから視線をはずし、アリアは黙ったままだった。
突如。
ユナンはアリアの腕を強く引いた。
「!?」
いきなりの事に何事かとアリアは驚き……
「きゃっ!?」
次の瞬間思わず声を上げていた。ユナンがアリアを抱き上げたのだ。
「っな……ユナン??」
「家どこ?」
短く尋ねるユナン。
「え?」
ユナンの唐突な質問に、アリアはオウム返しに聞き返す。
「家で安静にしてた方がいい」
ユナンは、はっきり言った。
「でも……」
「いいから!」
言いかけたアリアの言葉を強い口調で遮るユナン。
アリアは言葉もなくその顔を腕の中から見つめていた。



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